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第2回 パネルディスカッション 次代から選ばれるホンモノづくり ~いま求められる顧客への新価値創造~

葛西 薫 氏 (株)サン・アド 取締役副社長/アートディレクター

"不易流行"の精神をデザインづくりに活かす

私は、サントリーウーロン茶が販売された当初から、ずっとその広告デザインの仕事に携わってきました。あるとき、他メーカーが「一級茶葉使用!」と強烈なキャッチコピーを引っさげて攻勢をかけ、サントリーがピンチに立たされたことがあります。クライアントからは「もっとインパクトのある広告表現を考えて欲しい」と言われたのですが、私は「自分たちがやってきたことに信念を持つべきだ」と主張し、今までの表現を続けてお客様の支持を得ることができました。
モノを生産する、あるいはデザインするとき、その向こうには必ず使い手(消費者)がいるはず。私自身、何かを伝える側で仕事をしてきましたが、そのモノの表情は装いを変えることがすべてではなく、使い手がこれまで抱いてきたモノに対する気持ちや感情、思い入れ・・・。そういった部分を大切にしながら、精神性やアイデンティティを守っていくことも大切だと気づきました。特に、長い歴史・伝統を背負った京都のまちには、変えないことに価値や強みを見出している商品、サービスがたくさんあります。使い手に何を伝えたいのか、何を受け取って欲しいのかを明確にすることで、変えるべきところと変えないところが見えてくるのではないでしょうか。

楠田 久 氏 トヨタ自動車(株) BRレクサス戦略室室長

独自の価値観や魅力を実現する飽くなき技術開発

レクサスブランドが立ち上がって二十年ですが、ライバルのベンツやBMWは百年の歴史を持っています。何をやっても真似といわれれるのなら、歴史がないことを自分たちの強みととらえ、新しいことにどんどんチャレンジしよう!彼らが安全性能や動力性能を押し出すのなら、レクサスは圧倒的な静粛性を追求して「ときめき」や「やすらぎ」といった付加価値を提供しようと思ったのです。その一つの具現化が、「Yes(かつ、まだ)の思想」を取り入れた車づくりです。例えば、優れた高速安定性を実現しようと思えば、どうしても乗り心地が硬くなってしまいますが、決して妥協することなく、高速安定性と乗り心地の両立をとことん追及しました。
また、日本のブランドならではの"おもてなし"の気概のようなもの、さりげなく気配りされていて、後でうんちくを語れるようなものがプラスできないかと考えました。例えば、レクサス車の外板部分は、漆を塗るのと同じような水研ぎコーディングで仕上げていますが、これは伝統職人の技術を取り入れたものです。自社の"コア・コンピタンス"にこだわり、独自の価値観や魅力を創出できたことが、レクサクブランドの確立につながったと思います。

岡島 重雄 氏 (株)岡重 代表取締役社長/本所 知恵産業研究会委員

ほんものの技術と納得の価格で新市場開拓

私が、カジュアルラインのバックを作ろうと思ったのは今から二十五年ほど前のこと。当初は「バッグは革で作るもの!」と思い込んでいて、革の型押しのことばかり考えていましたが、なかなか思うように売上げが伸びません。ふと「自分たちの強みとは何だろう?」と振り返ったとき、"染める"ことに関しては自信がある、誰にも負けないということに気づいたのです。これまで培ってきた染色技術を活かし、よそにはないオリジナルバッグやアクセサリーの研究開発を進める一方、国内で最もよく売れる有名ブランドの価格帯が十三万円前後であることから、十三万円でどのような付加価値を提供できるかを考えました。自社技術の強み、そして価格へのこだわりが、新たなビジネスへの突破口につながったと思います。
どれだけ優れた伝統工芸品を作っても、それが現代のライフスタイルに合っていなければ市場に受け入れられません。私たちのような企業が勝ち残っていくためには、きちんとしたブランドを確立していくしかないでしょう。京都という地の利を生かしながら、"ほんまもん"を提供し続けることで、認知度を高めていきたいと思っています。

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